開業して半年
こんにちは。
かなり久しぶりの投稿となります。
3月はほぼ1ヶ月ブログの更新がなく過ぎてしまいました。
いろいろな事情があったのですが、これからはきちんと定期的に更新していきたいと思います。
開業後半年
昨年10月6日に新規開業して、半年が経過しました。
自分の今までの経験を活かして、地域の方々の健康に貢献出来るように、自分なりに頑張ってきました。
おかげさまで受診してくれる患者さんも増えて、かかりつけ医としていろんなことを相談してくれる人がいたり、病気の進行に伴い自宅で最期を迎える人のサポートをしたりしました。
その中には、血液検査や胃カメラや腹部エコーや大腸カメラで、残念ながら「がん」が見つかった方もいます。
早期発見で治療が出来る場合もあれば、手術や積極的な治療に至らず緩和ケアを中心に見守ることもあります。
いずれにしても、「がん」を抱えながら現実の日々を生きていくことになります。
肉体的に、からだがきつい、痛い、食欲がないといった症状が出ることがあります。
精神的に、なかなか受け入れられない、気持ちが落ち込む、先のことを考えられないといった問題があります。
同時に家族も非常に思い悩むことがあります。
治療をしても、治療をしなくても、「がん」があるという思いは消えません。
そのような思いに対して、寄り添いながら共感しながら「がんとともに」過ごしていけるようにお手伝いが出来ればと思っています。
まだまだ半年しか経過していませんが、濃密な経験をした半年だったと感じています。
これからも頑張りますので、よろしくお願いします。
ピロリ菌に感染してから
こんにちは。
前回に引き続き、ピロリ菌と病気の関係についてです。
感染するとどうなる?
小児期に感染すると、1年以内に、ほぼ100%慢性胃炎の状態となります。
組織学的には萎縮性胃炎といい、胃粘膜が萎縮した状態となっています。
ただしその進行度は個人差が大きく、萎縮した範囲によって分類が分かれています。
胃カメラをすると、萎縮している部分と萎縮していない部分は、色調や血管の見え方で異なっているため判別可能となります。
この段階で早期に発見して除菌治療することで、徐々に胃粘膜が元に戻ることを期待します。
胃がんになる?
しかし中には、自分のように「胃がん」になる人がいます。
自分は、先に「胃がん」が見つかり、後からピロリ菌感染が判明し、手術後に除菌治療をしました。
WHO世界保健機関もピロリ菌には明確な発がん作用があると認定しています。
またピロリ菌に感染している人と感染していない人では、胃がんの発症率が有意に異なります。
胃がん治療後の再発も減少させる効果があるとされています。
ピロリ菌に感染した人全員が、「胃がん」になるわけではありませんが、除菌をした方が「胃がん」になる可能性は明らかに低下させることが出来ます。
まずは自分にピロリ菌がいるかどうか、慢性胃炎~萎縮性胃炎になっているかどうか、胃がんがないかどうか、調べてみることが大事です。
胃がん以外の病気は?
「胃がん」以外にピロリ菌と関連する病気として、胃潰瘍・十二指腸潰瘍があります。
かつては潰瘍で苦しむ人が多く、再発を繰り返し、出血して吐血するため手術をする人も多数いました。
ストレスが原因と言われていた時期もありましたが、一番の原因はピロリ菌と言われています。
潰瘍の8~9割はピロリ菌が関連し、除菌治療をすると再発が非常に少なくなります。
また他にも胃MALTリンパ腫や特発性血小板減少性紫斑病(ITP)や機能性胃腸症や一部の胃ポリープはピロリ菌と関連があります。
実際、自分で検査した患者さんの中にも、MALTリンパ腫やITPの方がいて、除菌治療により軽快しています。
普段お腹がスッキリしない、いつもシクシクする、胃が重たい、といわゆる「胃が弱い」と思っている人も、除菌治療で軽快する機能性胃腸症の可能性があります。
胃ポリープの中でも、過形成性ポリープは除菌治療で縮小・消失することがあります。
実はいろいろな病気と関連しているピロリ菌ですが、除菌治療は簡単に行うことが出来ます。
また次回以降に治療とその後に気をつけること、治療の副作用についてお話しします。
胃がんとピロリ菌
こんにちは。
久しぶりの投稿になります。
ピロリ菌
今日もクリニックで胃カメラや大腸カメラをしました。
自分も胃がんの手術の時に判明しましたが、胃カメラをするとピロリ菌に感染しているかどうか、分かります。
だいぶ世間に浸透しており、「ピロリ菌」と説明すると、名前は聞いたことがあるという人がほとんどとなっています。
しかし、実際にどのような菌で、どうやって検査して、どのような治療が必要かどうかは知らない人も多いです。
胃がんと非常に強い関連がありますので、少しずつ解説していこうと思います。
ネットにもたくさん情報がありますので、参考にして欲しいです。
まず胃の中にカメラが入っていくと、胃の表面が見えてきます。
胃のひだや粘膜の状態、胃液・粘液の付着の程度、RACと呼ばれる集合細静脈の状態、黄色腫の有無、発赤・びらんの有無等々、チェックすべきポイントは多数ありますが、ピロリ菌に感染したことがあるかどうかは、一度カメラで見てみると分かります。
感染している?
一般的には小児期までにピロリ菌が感染するかどうかが決まります。
まだ免疫力が完成していない小児期に、井戸水や両親から感染します。
逆にこの時期に感染していない人は、大人になって感染することは稀です。
20年前、40年前と比べると、現在の上下水道や衛生状況は非常に良くなっており、感染率は減少傾向にあります。
しかし現在50歳以上の方は、高齢の方ほど感染している可能性高いです。
どうやって検査する?
実際にピロリ菌の除菌治療を行うには、ピロリ菌が感染していることを確認することと胃カメラで潰瘍や癌が出来ていないことを確認する必要があります。
ピロリ菌の感染は、
尿素呼気試験:息を吐いて検査する。
血液検査:ピロリ菌に対する抗体を調べる。
便検査:ピロリ菌の抗原を調べる。
病理検査:胃カメラで組織を採取して顕微鏡で確認する。
ウレアーゼ試験:胃カメラで採取した組織が反応するか調べる。
いずれかの検査を実施して確認します。
それぞれの検査でメリット・デメリットがありますので、患者さんの状態に合わせて選択します。
尿素呼気試験:確実性が高いが、絶食の必要あり、胃薬内服中は評価出来ない。
血液検査:絶食不要で胃薬内服中も可能だが、針を刺す必要あり、偽陰性もあり。
便検査:痛みなく採取可能だが、受診当日は困難なことが多い。
病理検査:胃カメラと同時に出来るが、採取する部位により評価出来ず、血液サラサラの薬を内服している人は採取できない。
ウレアーゼ試験:検査当日に判明するが、胃カメラをする必要あり、採取する部位により評価出来ないことがある。
担当医とよく相談して、検査をすすめて欲しいと思います。
ピロリ菌と病気との関連性や除菌治療について、また除菌治療後も気をつけることがあります。
とても1回で書き切れませんので、次回以降に続きます。
訪問診療
こんにちは。
昨日は地域医師会の新年会がありました。
診療科に限らず開業医の集まりですが、今回は夫婦同伴でしたので、妻もドキドキしながら参加しました。
先輩開業医といろいろ話をする中で、新規開業から徐々に患者さんが増えて、在宅での訪問診療を開始した話を聞くことが出来ました。
以前離島の診療所で勤務していたときも、町立病院で勤務していたときも、訪問診療をして在宅で看取りをしてきました。
患者さんの病状だけではなく、今までの人生の歴史や家族との関係性や家庭のようすを見ることが出来たり、季節を感じながら過ごすことが出来ていました。
病院を出て患者さんの家に行くときは、いつも「今日はどうかな?」と病院内で勤務しているより少しテンションが上がりながら向かっていました。
先月クリニックでも、外来通院していた方が通院困難となり在宅での訪問診療となりました。
本人は病院よりも自宅を希望し、家族も同様に自宅を希望していました。
最終的に自宅で看取ることとなりましたが、本人・家族が納得出来る最期となれればと、出来るだけのことをしました。
その往診の車中で、妻とお互いの最期についてどこでどうしたいか話をしました。
まだともに30代で小さな子どもが2人いる今、適切な話題かどうかは疑問でしたが、それぞれ考えていることが分かって、再確認できました。
妻は、最期は病院で、と希望しました。
理由は、自分で出来なくなることが増えていく中で、家族にその負担を強いることがイヤだし、してもらいたくない、見せたくないとのことでした。
自分は、最期は在宅で、と希望しました。
妻は、出来ることをしたいけど、出来るかどうかは分からないとのことでした。
9年前胃がんの手術で入院中、お腹の手術の傷が痛くてほとんど動けなかった時、妻は手浴、足浴やマッサージをしてくれました。
医療スタッフにも出来ることですが、家族にしてもらうことで、非常に嬉しくありがたかったです。
そんなことをふと思い出しながら、在宅で、と希望しました。
外来に通院している人や入院している人だけではなく、今は健康で病気に縁がないと思っている人も、いつかは病気になることもあり、死ぬときも訪れます。
直前に慌てて考えて話しても、なかなか考えがまとまりません。
今の想いは、1年後、5年後、10年後には変わるかもしれませんが、その想いを家族と共有しておくことが大事だなぁと思います。
今後どこまで出来るか分かりませんが、目の前にその必要性があれば、クリニックでも自宅でも施設でも、どこへでも馳せ参じて診療をしていきたいです。
がん10年生存率
こんにちは。
今日のニュースで、がん10年生存率のデータが更新された、とありました。
振り返ってデータを見て思うことはいろいろあり、データはあくまでただの数字ですが、告知されてから手術前の時期は自分にどうあてはまるのかと考えていました。
たとえば「胃がん」の全症例の10年生存率は、67.3%とあります。
ただし当然進行度、ステージにより異なります。
ステージⅠ 93.9%
ステージⅡ 55.8%
ステージⅢ 38.1%
ステージⅣ 7.0%
ステージⅠの早期癌であれば9割以上の方が生存していますが、ステージⅣの進行癌であれば9割以上の方は亡くなっています。
しかしどちらも100%ではなく、0%でもありません。
ステージⅠでも亡くなっている方はいるし、ステージⅣでも生存している方はいます。
上記のHPにも書いてあるように、がんは不治の病から、つきあう病へ、治る病へ変化しています。
あくまで今まで治療された人のデータであり、自分のこれからの未来の数字ではなく、もちろん余命でもありません。
現在10年生存率が出ている人が10年前に受けた治療と、今まさにこれから受けようとしている治療は完全に同じかどうかは分かりません。
医師としては、癌になったひとが自分はどうなるのかと気にして見るデータではなく、癌になっていない人がどういう癌はタチが悪いのか、治りにくいのか、治療後も長年再発の危険性があるのか、といったことを知るためのツールにすぎない、と思います。
自分自身も、いろいろなことを考えながら、数字を気にすることなく、治療に臨み、術後を過ごしてきました。
もうすぐ今年の9月には、自分も術後10年を迎えます。
いつもと変わらず、家族とともに、仕事をしながら、その日が来ることを楽しみにしています。
そして次の10年に向けて、日々楽しんで頑張りたいです。
胃がん告知の翌日
こんにちは。
昨日に引き続き、手術当時のことを振り返ります。
自分の病気
30歳の誕生日に胃カメラをして、その翌日に「胃がん」と告知されました。
告知されてからやるべきこととしては、自分の病気のことと仕事のことがありました。
まずは現在の自分の状態を調べて、治療方針を決めないといけません。
同時に勤務している診療所は医師一人のみの離島の診療所であり、自分がいなくなることは島に医師が誰もいなくなることとなります。当時は人口800人程度いたため、無医村にするわけにもいきません。
入院・手術を前提として、今後の予定を早急に決める必要がありました。
告知翌日の診療は午前中のみにして、昼のフェリーに乗って、急遽検査をした病院に行き、研修先の上司と外科医と話をすることとしました。
再度内視鏡の写真を見て、病理検査室で顕微鏡を実際にのぞいて、「がん」であることを確認しました。
この時点で少し冷静になりながら、外科医と今後の検査予定および手術日程の相談をして、同時に最大何日間入院が可能か=離島を留守に出来るか、確認されました。
通常胃がんの手術であれば、2週間程度で退院可能ですが、即仕事復帰できるかどうかは分かりません。3週間程度休めれば助かるなぁと思っていました。
これからの検査日と手術日が決まり、あとは周りの環境調整をすることになります。
この日は実家が近いこともあり、実家で夕食を食べることにしました。
とくに事前に知らせずに、「夕食を食べに行くね」とだけ電話して行きました。
両親と祖母と自分の妻と5人で食事して、食後に「実は胃カメラ検査をしたんよね」と話し出しました。
TVもついたまま、自然の会話の中で話をして、サラリと受け流してくれたら自分自身も助かるなぁと思っていました。
「どうだった?」
「胃がんになってて、手術することになった」
「え・・・」
と一瞬会話が止まり、母は急に吐き気を催して台所で空嘔吐してしまいました。
自分が「胃がん」と告知されたこと、妻に説明することも大変でしたが、自分の親に向かって自分ががんになっていると説明することは、一番きつかったです。
親がショックを受けているということに、自分もショックを受けてしまうけど、医師である自分が一番病気の状態を理解しているので、冷静に説明しないといけないのです。
でもそうして説明することで、自分を保ちながら冷静になれた部分もありました。
あとは仕事の調整が必要でした。
また続きます。
告知
こんにちは。
ときどき医療講演会を頼まれることがあり、自分の病気について話をすることがあります。
簡単に「胃がんで手術しました」と話をしていますが、やはりその過程ではいろいろ考えることがあり、みなさんと共有できればと思います。
自分の病気
第1回目の話の続きです。
http://blog.hatena.ne.jp/higuchiclinic/higuchiclinic.hatenablog.com/edit?entry=10328749687209277108
胃カメラ検査の翌日は、島で普段通り診療を行い、外来に来る患者さんと話をしながら検査のことを一時的に忘れていました。
仕事も一段落した夕方5時前に、検査した病院から電話が入りました。
先輩女医からの電話でしたが、いつもは明るい声で挨拶してくれるのに、沈んだ声だった時点でいやな予感がして、「やっぱり悪性だった。がんだった。」と告げられました。
「signet-ring cellが出ている」と言われたところで、涙が出てきました。
ちょうど中学・高校の同級生医師も電話先にいたので代わりましたが、正直何を話しても現実感がありませんでした。
診療所のスタッフに「昨日の検査の結果、がんでした」とだけ話して、早々に診療所2階の自宅に上がりました。
自分が医師として、また患者として、妻にどのように話そうかと考え、歩いて海岸まで行き、ベンチに座って話しました。
電話で言われたときよりも、少しは落ち着いて話をしたと思います。
しかし妻としては、「本当に全部話をしてくれているのか」「心配かけないように隠していることがあるのではないか」と思っていたと、後から教えてくれました。
ただ当時の時点では、「胃がんであること」が判明しただけだったので、正直自分でも分からないことは多く、現在どのような状態か、今後どうなるのか、どうしたら良いか、を調べて決める必要がありました。
話をしてからも、波の音を聞きながら、長く長くベンチに座っていました。
翌日も平日でしたが、診療所スタッフと相談して午後休みを頂いて、検査をした病院に行き、みんなと相談することにしました。
これから手術までの間は、体はどうもありませんが、気持ちとしてはかなりきつかった時期でした。
まだまだ続きます。