がんとともに

30歳で胃がんになった消化器内科医が胃腸クリニックを開業してからの想い

がんの告知

こんにちは。

 

日中はまだまだ暑いですが、ようやく朝晩涼しくなってきました。

 

最低月1回は更新しないと、と思いながら、あっという間に月末になりました。

 

告知

 

最近クリニックで診療していると、内視鏡検査で胃がんや大腸がんが見つかり、患者さんと家族に告知して病状説明することが続いています。

 

自分が医者になった15年前は、先に家族に話をして、本人にどう伝えるか確認することもありました。

 

しかし最近は、本人に隠すことなく病名を告知して説明する風潮になりました。

 

むしろ本人にまず伝えて、家族の中の誰に説明して欲しいか確認することもあります。

 

 

自分が「胃がん」と告知された時は、まず自分に告知されて、自分から家族に説明しました。

 

正直、自分の悪い結果を自分で説明して、自分の家族がショックを受けているのを見ることは、よけいに自分がへこみました。

 

出来れば、本人・家族に同じタイミングで同じように説明したいと思っています。

 

 

どのように告知するか

 

2人に1人ががんになる時代で、「がん」自体は身近な病気となりましたが、やはり自分が「がん」になることは特別に感じることが多いです。

 

いろいろな症状があったり、検査で異常があり、さらに詳しく調べると「がん」であると診断することになります。

 

診断のgold standardは病理検査と呼ばれる、細胞の顕微鏡検査の結果です。

 

通常は標本を採取して結果が出るまでに数日~1週間かかります。

 

しかし多くは、その結果が出る前の段階で、「がん」である可能性が十分に高いと判断していることが多いです。

 

その段階から、告知の準備は始まっていると考えています。

 

 

まずは、ゆっくり話をする時間が取れるように、前後の患者さんの順番を調整します。

 

周囲の雑音や他人がいると集中して話が出来ませんので、診察室の裏方側も閉めて、個室を確保します。

 

初回の話では、「がんも含めて悪いものの可能性がある」と可能性の話をして、次回に検査結果を説明することとしています。

 

そして検査結果は、正直に隠さずに、「悪い結果が出ている」と説明を始めます。

 

いきなり「がん」ですとは言わないようにしていますが、一通り説明した段階で、「あなたの病気は・・がんです」ときちんと病名を告げるようにしています。

 

(悪いもの=がんと認識してもらえないことも多くありますので)

 

出来るだけゆっくり間を作るようにして、患者や家族の反応を見ながら、説明を続けていきます。

 

多くは病気の状態と最善の治療方針や他の治療の選択肢を提示することになります。

 

特に家族は、予後・余命のことを非常に気にします。

 

しかしがんと診断した時点での予後の推測は、かなり不正確で困難ですので、本人に伝えることはほとんどありません。

 

説明を重ねる中で、家族に心の準備をしてもらうために、年単位・月単位・週単位・日単位の残り時間となれば、少しずつ話をしていきます。

 

1回でたくさん説明したいのですが、聞いている方は多くの情報を聞いても処理しきれません。

 

まず今日説明を聞いて家に帰ってからしないといけないことを、明確にするようにします。

 

 

さらに精密検査を受けるように大病院に行くのか、どこの病院に行くのか、セカンドオピニオンを受けたいか、手術や抗がん剤治療についてどう思っているか。

 

患者自身が、病気に対してどのように思っているか、感じているかを聞いていきます。

 

また家族にがん患者がいるかどうか、いればどのように対応したか確認します。

 

最後になにか聞きたいことはないか?と聞いて終わります。

 

 

 

 

ただ一番大事なことは、「あなた」のことを考えてこれからも支えていくつもりです、という自分の気持ちを伝えられるように、辛い結果ですが日々説明しています。

訪問診療は大変?

こんにちは。

 

ようやく梅雨が明けて夏本番となりました。

 

訪問診療の実際についてです。

 

夜中に呼ばれる?

 

訪問診療を始めようと思っている時や始めた初期は、「24時間365日休むことが出来ず、遠出も出来なくなるけど、大丈夫?」と周囲の人に言われ続けてきました。

 

世間一般の人が想像する訪問診療も、夜中に往診鞄を持って駆けつけてくれるイメージでしょうか。

 

クリニックで働く医師は自分一人だけですし、患者さんに何かあれば最終的に対応する責任を持っているのも自分一人しかいません。

 

その点において指摘されていることは正しいのですが、指摘してくれる人の多くは、訪問診療を実践していない人であることが多かったです。

 

実際に訪問診療をすでに実践している人からは、「急に呼ばれることがないわけではないが、予想できることも多く、また連絡があっても電話で対応したり、駆けつけなくても対応できることもあるから、大丈夫だよ。」と励まされることが多かったです。

 

 

 

そしてクリニックで実際に夜間診療時間外に患者さんの家に駆けつけたのは、早朝に患者さんが亡くなり死亡確認をして看取った時の1回だけです。

 

このときも完全に予想外というわけではなく、数日前から診察しながら、そろそろ亡くなる時期が近づいており、呼ばれることがあるかもしれないと気持ちの準備は出来ていました。

 

それ以外に電話連絡が入ることは何回かありましたが、連携している訪問看護ステーションのスタッフにより速やかに対応して、通常診療までつないでもらうことがありました。

 

患者さんには自分の携帯電話番号を教えていることもありますが、多くはまず訪問看護ステーションに連絡をして、対応して頂き、必要な場合に自分にまで連絡が来ることになっています。

 

今後も自分たちだけではなく、訪問看護やヘルパーと連携していければ、みんなで24時間365日体制のサポートを作り上げることが出来るのでは、と思っています。

 

 

 

実際に患者さんが訪問診療を希望して開始するかどうかは、本人の気持ちや状態もありますが、一番重要なのは家族の気持ちや覚悟にあると思います。

 

核家族化や老老介護やおひとりさまの問題があり、また家族内の微妙な関係性があったり、なかなか上手くいかないこともあります。

 

次回は家族の思いに触れていきます。

 

訪問診療1例目

こんにちは。

 

本日午後は休診ですが、クリニックの清掃・ワックスがけのため残って仕事をしています。

 

まだ開業して9ヶ月ですが、人の出入りするところやずっと物品を置いているところは、いつの間にか汚れがたまっています。

 

キレイにピカピカにして、明日からまた診療に臨みたいと思います。

 

訪問診療始めました

 

開業当初は在宅医療・訪問診療を行いますと掲げてはいませんでしたが、外来に通院していた患者さんの具合が悪くなり、開業3ヶ月目に訪問診療の1例目を開始しました。

 

開業前に勤務していた施設で訪問診療や在宅看取りをしていた経験もあり、いずれは開始するだろうと思っていましたが、予想より早く始めることとなりました。

 

元々週1回は外来通院しており、ある程度状態を把握していましたが、患者さんの状態が悪化したと携帯電話に連絡があった時には、ドキッとしました。

 

家族とともに外出している時だったので、妻に「どうしたの?」と聞かれました。

 

幸い電話の時点では緊急性はなく、訪問看護師から報告を聞き指示を出しましたが、ちょうど連休中であり、翌日朝1番に患者宅に伺うこととしました。

 

進行癌で治療していましたが、お腹の水が貯まって痛みもありきつくなったようです。

 

 

外来通院していた時から何回も本人の希望を聞くことがあり、「先生に任せている」「自宅で療養したい」「入院はしたくない」と意向がハッキリしていました。

 

幸い家族も本人の意向に賛同して協力が得られましたので、医療・看護のサポート体制を築くことが出来て、訪問診療を開始することになりました。

 

 

鎮痛薬や利尿薬やステロイドを投与しながら、症状を緩和できるように努めましたが、どうしてもお腹の膨満感が強く、その後お腹に針を刺して水を抜く治療も行いました。

 

訪問診療では患者さんの自宅で、鎮痛薬として麻薬の投与はもちろん、注射や穿刺することも可能です。

 

緩和ケアと呼ばれる、「病気に伴う心と体の痛みを和らげること」を目標に治療を継続し、最終的には自宅で看取ることとなりました。

 

亡くなる前日も自宅で診察し会話をして帰りましたが、翌日朝家族が起きた時には呼びかけに反応がなく、朝の外来開始前に死亡確認となりました。

 

 

 後日、家族や訪問看護師から在宅での治療が出来て、看取ることが出来たことに対して感謝の意を伝えられました。

 

自分が出来ることを行い、感謝されると嬉しいものです。

 

患者が亡くなって嬉しいとは不謹慎な言葉かもしれませんが、医者冥利に尽きるということです。

 

 

 

こうして少しずつ在宅医療・訪問診療に対して、前向きに関わり始めることとしました。

訪問診療を始めて

こんにちは。

 

なかなかブログの更新が出来ていませんでした・・・。

 

早くも6月は今週で終わり、蒸し暑い日が続いています。

 

訪問診療を始める

 

前回話したように、国が在宅医療を推進している状況ですが、現実には様々な事情によりなかなか拡大しているとは言えない状況となっています。

 

自分が開業時も、自分一人でどこまで出来るか分からなかったので、在宅医療を掲げることはありませんでした。

 

しかし普段診察しながら思うことは、やはり患者のこと、住民のこと、地域のことです。

 

今まで外来に通院して診てきた人の状態が悪化して通院できなくなれば、もう自分が診ないのではなく、自分から家に伺う形で場所を変えて継続して診ていきたい、との思いがありました。

 

そうして、ごく自然な形で在宅医療・訪問診療が開始されることが多いです。

 

訪問診療を始めてから

 

実際に始めてみると、周囲から「在宅は大変だよ」と助言?を頂くこともありました。

 

しかしなにがどのように大変で、どうしたらそれを解決できるのか、が分かりません。

 

24時間365日対応する必要があり、その肉体的・精神的負担は当然あります。

 

しかし訪問看護ステーションと密に連携することで、状態を細かく把握することが出来て、今後の見通しを立てることも出来ます。

 

今もまだまだ分からないことはありますが、地域内での連携を強化して、医師・看護師・ケアマネージャー・ヘルパー・リハビリPT/OT/ST・薬剤師と顔の見えるつながりが出来ていけば、もっと上手に出来るのではと思います。

 

福岡県の事業としても、在宅医療提供体制の充実を図ることを目的とした事業が実施されており、先輩開業医から教えを請うことが出来ます。

 

医師会の会合で話をするだけでも、参考になることはたくさんあります。

 

地域内でうまく連携をして、最終的に患者・住民・地域にとって、なにか体のことで問題が起きても対応できる場になれればと思います。

 

次回は実際にどのようなことをしているか、お話しします。

訪問診療

こんにちは。

 

5月ですが、日差しがかなり強く暑くなり、夏を感じるようになってきました。

 

屋外は当然、屋内でも熱中症になる危険性がありますので、積極的に水分補給をしながら行動しましょう。

 

 

訪問診療と往診の違い

 

今回から、自宅や施設での医療についてお話しします。

 

まずは言葉の問題ですが、自宅で行われるさまざまな医療のことを「在宅医療」と呼びます。

 

そのうちかかりつけの主治医が定期的に予定して自宅に伺い診察することを「訪問診療」と言います。

 

昔からよく使われてきた「往診」という言葉ですが、予定外に患者や家族の求めに応じて、自宅に伺い診察することを言います。

 

また厳密には自宅だけではなく、老人ホームを含めた施設での診察も「在宅医療」となります。

 

つまり病院に入院中ではなく、クリニックに通院するのでもなく、自分がいるところ(自宅や施設)に来てもらって、診察・診療することを在宅医療と言います。

 

 

www.mhlw.go.jp

 

国として、重度の要介護状態となってもできる限り住み慣れた地域で療養できるよう、在宅医療を推進しています。

 

理由として、少子高齢化や医療費の高騰や入院の長期化等、いろいろな問題がありますが、政策として推進されており、必ず誰もが直面する問題となります。

 

 

クリニックでの訪問診療

 

実際にクリニックを開業して8ヶ月が経過したところですが、今まで外来通院していた患者さんが、少しずつ病状が悪化して通院困難となり、在宅医療に移行するケースが出てきています。

 

開業当初は、在宅医療をすることを掲げていなかったため、通院している方からも「最期まで、自宅まで来て、診てもらえますか?」とよく聞かれていました。

 

私は、

「健康のことから、身近な話まで。地域とともに歩む。」

「健康について何でも相談される役割を担いたい。」

という理念を掲げて、クリニックを開業しました。

 

そのような中で、「最期まで診て欲しい」と要望されることは、かかりつけ医として非常に喜ばしく嬉しく誇らしい気持ちになります。

 

実際に始めてみて、感じたことや大変なことを書いていきます。

ピロリ菌を除菌したら

こんにちは。

 

GWが終わり、日差しが暑くなってきました。

 

クリニックは暦通りの休みを頂きましたが、休日も在宅で療養している方の家に訪問していました。

 

通院外来だけではなく、自宅でも、最期まで、向き合っていきたいと思っています。

 

ピロリ菌除菌後

 

前回までピロリ菌の除菌治療について説明してきました。

 

今回は除菌治療後に気をつけることをまとめました。

 

多くの方は、ピロリ菌を除菌すると「治った!」と思いますし、「これで大丈夫!安心!」という気持ちになると思います。

 

実は半分正しいですが、半分は間違っています。

 

胃潰瘍や十二指腸潰瘍になる可能性は非常に低くなりますし、安心と思います。

 

しかし胃がんの危険性はゼロにはなっていません!!

 

除菌治療をした年齢や胃炎の程度により、治療後の危険性が変わってくるからです。

 

小さい頃に感染したピロリ菌は、年々萎縮性胃炎が進行して、細胞レベルでは様々な変異を起こしていることがあります。

 

胃カメラで確認しても認識できない病変が、数年後に周囲の粘膜がキレイになることで明瞭になってくることや、徐々に増大して認識できるようになることがあります。

 

ピロリ菌に感染していた多くの方は胃がんになる母地があるのです。

 

除菌することで、それ以上進行することはありませんが、それまでの胃炎の母地がありますので、胃がんになる危険性はゼロにはなりません。

 

除菌治療後も、必ず1年に1回の胃カメラ検査をして、胃がんの早期発見を目指していくことをお勧めしています。

 

 

 

実際に、自分の父もピロリ菌除菌後に胃がんが見つかりました。

 

幸い早期でしたので、内視鏡治療ESDで治癒することが出来ました。

 

 

 

またピロリ菌を除菌すると胃酸の分泌が復活するために、たまに逆流性食道炎を引き起こすか違います。

 

胸焼けや酸っぱいものが上がってくるといった症状がある際には、胃酸を抑える薬の内服が有効です。

 

 

 

胃がんの発生や死亡は年々減少していますが、まだまだ実数としては他のがんに比べると多い状況です。

 

少しでも早くピロリ菌の除菌治療をすることで、胃がんになる人がゼロに近づくことを夢見ています。

 

 

次回からは、訪問診療についてお話しします。

ピロリ菌の治療

こんにちは。

 

熊本地震から1年が経ちました。

 

1年前の4月14日、内科学会総会で発表するため飛行機で東京に向かっている最中に、前震といわれる地震が発生しました。

 

羽田空港に到着するとTVが臨時ニュースになっていて、慌てて自宅に連絡して家族の無事を確認しました。

 

熊本・大分をはじめ九州のために、自分に出来ることを考えた時でもありました。

 

 

ピロリ菌の除菌治療

 

前回までに続いて、いよいよピロリ菌の除菌治療について解説します。

 

検査でピロリ菌がいることが分かると、除菌治療をお勧めしています。

 

ただし保険適応となる病気が決まっていて、元々は胃潰瘍や十二指腸潰瘍の人が対象でしたが、徐々に胃MALTリンパ腫や特発性血小板減少性紫斑病の人や早期胃がんに対する内視鏡治療後の人にも拡大し、現在はピロリ菌に感染した胃炎の人も適応となっています。

 

また胃がんが出来ないないかどうか確認する意味も含めて、治療前に胃カメラ検査を行うことが必要となります。

 

治療の方法としては、抗生物質を2種類と胃酸を押さえる薬1種類の計3種類の薬を朝晩2回、1週間内服します。

 

治療自体は1週間のみで終了となります。

 

抗生物質に対して耐性を持ったピロリ菌がいるため、100%の成功率とはなりませんが、ほぼ90%以上の確率で成功します。

 

ただし100%ではないために、必ず除菌できたかどうか、確認する必要があります。

 

感染診断したときと同じような検査ですが、除菌治療してから最低4週間、出来れば8週間は間を空けて検査をします。

 

もし失敗していれば、抗生物質の種類を変更して2回目の治療を行い、95%近くは2回目までで除菌治療が成功します。

 

万が一失敗した人は、保険治療ではなく自費診療となりますが、3回目の治療まで検討することとなります。

 

 

治療に際して気をつけること

 

抗生物質を内服するため、薬剤にアレルギーがある人は要注意です。

 

また1週間の薬を途中で中断すると成功率がかなり低くなってしまいますので、忘れずにきちんと内服することが重要です。

 

よく聞かれることでもありますが、飲酒は2回目の治療の際は影響が出るため、控えましょう。

 

他にも副作用として、アレルギー反応(発疹・かゆみ)、軟便・下痢、味覚異常、肝機能障害が報告されています。

 

実際今までアレルギーはなかったけど、内服中や内服後に発疹が出現したり、下痢になった人は経験があります。

 

いずれも軽症で速やかに回復しましたが、やはり薬を内服するということで、危険性もあることは理解しておく必要があります。

 

胃潰瘍や十二指腸潰瘍はもちろん、胃がんの再発予防にも十分役立つピロリ菌の除菌治療ですので、感染している人はぜひ治療をしましょう。

 

次回は除菌治療後に気をつけることです。